「誕生日おめでとうナリ、真田」

そう言って仁王が真田に差し出したのはホールサイズのチョコレートケーキだった。 大きな包みとともにA組に訪れた珍しい人物に真田は少しだけ目を丸くしたがそれが自分宛てのものだと分かると少しだけ顔を綻ばせた。 柳生からもらった手編みのレースのハンカチにもなかなかの衝撃を受けたが、仁王のそれもなかなか強烈なものだった。

「味わって、食べて欲しか」

それだけ言うと詐欺師はケーキの箱を置いて教室に戻って行った。 チョコレートのプレートには「げんいちろうくん15歳おめでとう」と書かれており、わざわざ店員に頼んだのか、15本分のロウソクも律義に添えられていた。

「・・・真田くん、」

声をかけられて振り向くとそこには苦い顔をした紳士が居た。

「わたしのときは、ケーキの中の、ジャムだと思っていた部分が、すべてハバネロでした」

ジャッカルくんのときは抹茶ケーキだと思っていたがワサビケーキだった。 などなど無駄に器用な詐欺師は誕生日に店で買ったかのような完璧な仕上がりのケーキを作ってはそこに何かを仕込んで渡してくるから気をつけろ、とのことだった。 が、いくら悪戯をされている可能性があるからといって人の好意を無下にできるはずがないのが真田だ。 どきどきしながら真田はケーキを一口、口に含んだ。 瞬間、口に広がったのはなんともいえない苦み。 甘いチョコレートからはとても連想できないような苦みだった。 苦い顔をした真田を柳生は心配そうに見ていた。

「・・・そういえば、昨日スーパーで大量にカカオ99%のチョコレートを買ってましたね」

わざわざ手間も暇もかけて作るのなら、素直に祝えばいいのに。 と柳生はひねくれた詐欺師の愛情表現に少しだけ笑みを零す。 その柳生の向かいでは真剣勝負かと思うような鬼気迫る表情をした真田がケーキと向かい合っていた。




リボンの手錠

(その後、真田はカカオ99%の世にも珍しい苦いチョコレートケーキを三日かけて完食した。)
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