幸村くん、
この声はブン太だなと思った。
振り向くと予想通りの赤い髪が立っていた。
いつもの人懐っこい顔ではなく、兄のような、少しだけ怒った顔で。
こういう時、おれを見つけるのはいつもブン太だった。
「また抜け出したのかよ」
ごめんね、と笑うと呆れたように溜息をついた。
病院は嫌いだ。
いるだけで、気が滅入る。白い天上、白いシーツ、白い医者、死人の様な、おれの白い肌。
急に、その白さが恐ろしくなった。
思わず点滴をひき抜いて、おれは病室を抜け出した。
たまに、本当にたまに、こんな衝動に駆られる。
気づいたらおれの足は屋上に向かっていて、おれは空の青さにほっとする。
見上げる空の色は、コートから見上げるそれと一緒で、おれは少しだけ救われる。
「幸村!この大馬鹿者!」
治るものも治らんだろう!と真田の怒声におれは小さく笑う。
ブン太から連絡を受けた他のレギュラー陣も屋上にやってきて、殺風景だった屋上が一気に華やかになった。
(比喩ではない。赤髪やら銀髪やら派手な奴が多いからだ。)
「部長、ダメっすよ、抜けだしたら!」
「びっくりしましたよ」
「ほんまに、うちの部長は悪い子じゃ」
彼らは、おれを腫れもののように扱わない。
壊れ物を扱うように、可哀想なものをみるように、彼らはおれを特別扱いしない。
それが、嬉しかった。
たとえおれが治る見込みの少ない病気でも、もう二度とテニスができなくても、死んでしまうかもしれなくても、
冬が来て春が来るような、そんな当然のことのように、彼らはおれを待ってくれていて、おれの居場所を守ってくれている。
「精市が治る確率、100%だ」
ああ、はやくみんなとテニスがしたいなあ。