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「なーなー跡部ー。今日泊まってもいい?」 「許可すると思ってんのか」 一瞥もせず跡部は言った。 赤いソファにもたれ掛かって紅茶のカップに口をつけている跡部の横には歯ブラシセットとパジャマ一式(スウェット)を持って不満そうに口を尖らしている忍足・岳人・慈郎・宍戸の姿があった。 鳳・日吉・樺地の二年生組は跡部と同じようにソファに座って紅茶を飲みながらその様子を見ていた。 「DVD観賞会からお泊りは当然の流れなんやで、跡部」 「おまえの常識をおれに当てはめるんじゃねえ」 冬休みが始まり、忍足の提案に岳人や慈郎がのっかる形でほぼ強制的に開催された第一回DVD観賞大会(in跡部のマンション)。 その内容は各々が自分のお気に入り・お勧めの映画を持ち寄って皆で観賞会をするだけという極々普通のもの。 部活が忙しくて久しく映画を見ていないテニス部の面々は顔には出していない者(日吉)もいるが誰もが内心少なからず楽しみだと思っていた。 ちなみに三年生を泊めると食い散らかすわ脱ぎ散らかすわで帰った後の部屋がまるで嵐が過ぎ去った後の様になる。跡部はそれが嫌だった。 跡部は何かないのかと言われれば部屋にある適当なDVDを流すつもりだったし、 何を観ても眠くなる慈郎にはそもそもDVDを持ってくる気もなく、 樺地は何本も映画を観るのは疲れるだろうと遠慮してDVDを持って来なかったため結局DVDを持ってきたのは宍戸・岳人・鳳・忍足・日吉だけだった。 『スパイダーマン』(岳人チョイス)、『スターウォーズ』(宍戸チョイス)、『ロード・オブ・ザ・リング』(鳳チョイス)などタイトルは知っているが観たことはないというものばかりで、 (ちなみに彼らが持ってきたのはどれも一作目で気に入ったらぜひ続き貸しますよ、とのことだ。) 世に誇る名作たちはえり好みが激しい跡部や日吉も十分に楽しめた。 アクションやファンタジーが続く中、息抜きにもこれや。とドヤ顔で忍足が流した映画は珍しく邦画(純愛系)ではなく動物(しかも感動系の)ものだった。 開始30分で部屋は鼻を噛む音と鼻をすする音でいっぱいになり、あっと言う間にテッシュBOX一箱が空になった。 「最後はおれですね」 100人中99人が泣いた映画、というパッケージの煽り文句の通り、約一名(日吉)を覗く全員が目を腫らしている中で日吉が取り出したDVDのパッケージは予想通り真っ黒で、「あ、順番ミスった」と気付くには既に遅すぎた。 「おれの中の最高傑作です」 日吉の持ってきたDVDは短編集だった。 長編ばかりだったから丁度いいでしょう、とレギュラー陣が凍りついている中日吉はDVDをセットして再生ボタンを押した。 真っ黒の画面にR15という赤い文字が浮かび上がる。(ちなみに日吉は14歳だ。) 全員がちらりと盗み見た日吉は嬉々とした表情で画面を見ていた。 DVDの内容は、日常の潜む恐怖、学生、学校、夜道、などなど身近でリアルな題材ばかりだったが、やけに一人暮らし設定のものが多く、あらゆるパターンで様々なシチュエーションでこれでもかと一人暮らしの人を重点的に恐怖のどんぞこに陥れる、そんな悪意すら感じられるものだった。 血まみれの女幽霊が落ちていくシーンでほくそ笑む日吉がオススメするくらいだ。 その怖さは予想のはるか斜め上をいくものであり、DVDを観終わった後口を開くものはおらず誰もが静かに口を噤んでいた。 時刻は既に夜。窓の外は真っ暗だ。 「・・・・・おまえら、歯ブラシは持ってきたな?」 静まり返っていた室内で青い顔をした跡部が静かにそう呟いた。 |