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昔から絵が好きだった。
初めて美術館に行ったのは五歳ぐらいの時だったと思う。
母に手をひかれて印象派の画展を訪れた。
絵の具の匂い。
油絵の匂い。
絵の匂い。
外国の匂い。
そこは日本でありながら外国であるようなまるで別世界であるような、日常とは全く異なる世界が広がっていたのを覚えている。
壁に等間隔で規則的に並ぶ絵の中には様々な色の世界が広がっていて、おれはその美しさに圧倒された。 「上手じゃな」 ふわり、と白が舞った。 筆を止めて顔を上げるとキャンバスの上から覗きこむようにして白色の髪をした男がおれの絵を見ていた。 すごい色だな、と思った。 このチューブの白色より白いんじゃないんだろうか。 「そう?ありがとう」 「印象派?っちゅーんか?綺麗な色使いじゃ」 光と影の動き。 鮮やかな色彩。 変化の質感。 そんな印象派の絵の特徴を、目の前の、白い髪の、見るからに性質の悪そうなこの男が知っているとは思っていなかったおれは面喰ってしまった。 そんなおれの顔が面白かったのか、目の前の男の緑色の目には楽しそうな色が浮かんでいた。 ああ、なんて綺麗な色なんだろう。 その白もその緑も、おれにはない色だ。 「絵みたいに綺麗な男の子がおるって、女子が騒いどったぜよ」 「え、それっておれのこと?」 「たぶんな」 きみの方がよっぽど綺麗だと思うけど。 興味深そうにおれの絵を覗きこむ横顔を見ながらそう思ったが結局口には出さなかった。 光の動きと角度によって白色にも銀色にも変化する髪。 人工の色とは思えぬその美しい色をおれは静かに目で追う。 綺麗な髪の色だね、と今度は思ったことをそのまま口に出すと彼は嬉しそうにその緑色の目を細めた。 |