「死にたいんか」

氷のような冷やかな声で侑士はおれを見下ろして言った。 滅多に表情を崩さないこの男が、珍しいことにその眉間に皺を刻んで、それはそれは険しい目でおれを見ていた。

「サンキュ、侑士」

とおれは短く言った。 天気のよい学校の屋上は風がとても気持ちよくて、気まぐれで、なんとなくおれは屋上の縁を歩いていた。 誤算だったのは急に強い風が吹いてふらついたことで、あと一歩で落ちるというところでおれは腕を掴まれた。

「おれがおらんかったら、死んでたで」

淡々と侑士は述べた。 まるで何事でもなかったかのように。 そうだな、と答えると呆れたように溜息を吐いた。 阿呆か、と冷たい目で侑士はおれを見ていた。 珍しいな、と思った。 侑士が感情を乱すところなんて、おれは見たことがないから。

「はやく、こっちに戻ってき」

おう、と言っても動く気のないおれを見て侑士の顔はますます険しくなる。 さきほどからおれの腕は離されることなく、強い力で掴まれたままだ。 とてもおれの力では振りほどけないような。 まるで風船を握りしめて離さない子供のようだった。 掴んではいるが引っ張ることはしない。 自分の意志で戻って来いと言われているようだった。

おれが縁から降りても侑士は腕をつかんだままだった。 死にたいんか、と俯いて小さな声で侑士は言った。 その表情はわからないが、いつもの飄々として穏やかな彼の顔はどこにもないんだろうなということはわかった。

彼は優しいのだ、それも底抜けに。

「もうすぐ冬だな、侑士」
「そうやな」

掴まれた腕は温かくて、生きてるんだなあとなんとなく思った。




冷徹な青の葬送

20130526